独言独歩
中村雄二(現文講師)のコラム

12.長島(6) お説ごもっとも、でない 
―「森晶が語る巨人V奪還秘策」(「週刊朝日」99/10/22)をめぐって―

  優勝を逸した巨人について語る森祇晶まさあきの言葉は、最後まで具体的「敗因」に触れることはない。絶好機に主力打者が凡退を繰り返し、投手が肝心の場面で相手の打者を押さえることができないということが続けば、試合には負ける。ひいては優勝を逸する。当たり前のことだ。

優勝を逸した巨人を語るのなら、優勝できるだけの戦力がありながら優勝できなかったのは監督の無能がその原因である、と断じたうえで、その無能な監督の数々の愚かな采配の中から具体的に幾つか指摘する、そうするだけでよかったのである。

ところが、森の口は、巨人が負けたことを口実にした、日頃機会があれば吐き出したいと思っていた鬱屈を垂れ流しているに過ぎない。スポーツ評論の世界の不毛を森もまた体現している。(同時進行の解説については、思いつく限りでは、陸上の増田明美、プロ野球の江川卓の解説は出色であるが、自余の多くの解説者の場合、アナウンサーとの雑談やアナウンサーの言葉に相槌を打つ程度のことを解説と称して言葉を垂れ流しているのはご承知の通り。)

  以下、「森晶が語る巨人V奪還秘策」(「週刊朝日」99/10/22)から。

   まずは森の語る総論から。

《三年連続V逸の原因》

巨人の戦い方は年々歳々、一発主義が前面に出てきている。…チームづくりの原点から、優勝した中日との違いを痛感しますね。

   お説ごもっとも、かも知れない。だが、これが言いたいことであるはずがない。で、何を言いたいんだ。じれったい。

   次は半分総論、半分各論である。

《球団の補強ポリシー》

補強にかけては最大の努力はしていると思う。…ただ問題は、観点が少しずれているってことですよ。…最大の補強ポイントは捕手なのに何も手を打っていない。そこなんだな、問題は。

   なるほど。かといって、古田を連れてくるわけにも行くまいし…。(スワローズが困るし、巨人が強くなりすぎる。)次の部分には、森の本音がちらと顔を覗かせている。
《問題は戦力の運用》

戦力的にこの三年の優勝チームに劣っていたかというと、そうでもないと思うんだな。…ただ戦力の運用の問題が大きい。投手陣が悪いと言われるが、140キロのスピードが出せる投手ばかり。他のチームからみると、ヨダレが出るスタッフだ。

   勇を鼓して、監督が悪い、と言ってしまえばすっきりするだろうに。次第に、森が言いたいらしいことが言葉となってくる。
《投手起用について》

長嶋監督はピッチャーが弱いと言ってますが、投手たちにもっと納得して投げる意識改革と環境整備をすべきだ。ちょっといい投球をすると集中的に使う。昨年は入来弟、今年でいえば木村、終盤の岡島。三沢や河原のように先発と中継ぎをいききするひともいる。偏った起用のために消えていった投手も多い。こういう使い方をしたのでは、いつまでたっても一本立ちしないし、投手陣全体が機能しない。

   どう読んでも長嶋の投手起用法批判ではあるが、些かお粗末に過ぎる。確かに、「投手たちにもっと納得して投げる意識改革と環境整備をすべき」とは立派な総論ではあるが、使えそうな選手を使わない監督はいない。阪神の福原、広島の小林幹英、中日の岩瀬、数十年前の酷使と比べたら、お姫様扱いであろうが、みなこき使われた。使われてこそ選手の誉れである。それで壊れるようではプロ野球の世界ではいずれにせよやってはいけない。

   次は、森が言いたいことを思い切り口走っている部分である。

《チーム作り》

チームの骨格は自分のところで賄うべきじゃないかな。補強と育成は車の両輪みたいなもの。が、巨人はその育成部門が遅れている。穴があくと部品を買ってきて、すぐ蓋をするから、それが過ぎると伸びようとする芽も腐ってしまう。

   入団一年目から正選手として活躍できる選手だけ集めて戦う球団があってもいい。一人の選手に何年もの時間とふんだんな機会を与えて育てる必要がないほうが望ましいに決まっている。巨人に入団した新人は一年目が勝負である。ところで、「育成部門」が充実しているのはどこのチームだ。

   優勝できなかったのはすべて長島のせいだ、と言ってしまったら森の胸のつかえも一気に降りるだろうに。偏頗な補強を望んだのも長島なのだから優勝を逸したのはどう考えても長島の無能のせいである、と断じてしまったら、こんな分かりやすい話はないのである。

   西暦二千年、長島巨人はホークスを4勝2敗で下してシリーズ優勝を果たした。で、誰のせいなんだ。


記 2000年10月28日


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