『破れかぶれ時事想論』 (野島明) 
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二千十年八月

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故梨元勝はなぜテレビから締め出されたのか

   いつの頃からか故梨元勝氏をテレビ(キー局)で見かけなくなっていたのはなぜか。氏の死亡記事を掲載した一般紙四紙、スポーツ紙六紙(注1)に目を通しても、その疑問に答えている報道媒体は、案の定、一つもない。驚きもしなければ、失望もしない。ただ、情けない。

   故梨元勝氏がある時期以降テレビ(キー局)から締め出されていたことをそれぞれの媒体は如何様に伝えていないか、或いは伝えているか。@(ヨミウリ)、A(マイニチ)、B(アサヒ)、D(サンスポ)(注1)、いずれもしっかり「見ざる、聞かざる、言わざる」の三匹猿を決め込んでいる。

6月に肺がんと診断され、都内の病院に入院。病室でも取材を続け、自身の携帯サイトや雑誌連載、ラジオ番組出演を通じて芸能ニュースを発信していた。(@)
   なぜ「テレビ・ラジオ番組出演を通じて」ではなく「ラジオ番組出演を通じて」としたのか、書いている記者に自覚はあったか。あったに決まっている。敢えてこう書いたのである。「テレビのキー局を締め出されていたためラジオ番組出演を通じて」と書くわけには行かなかった。そう書けば、締め出された理由にも触れざるを得ないからである。いわゆる自主規制という、相撲や野球で言うところの八百長である。《彼等》、すでにアレを売り渡しているのである。

   記事の末尾に「(共同)」とあるC(東京)とH(中日スポーツ)二紙の記事と、E(スポーツ報知)、F(日刊スポーツ)、G(スポニチ)、I(デイリー)四紙の記事の文面は全体的にほぼ同じであり、共同通信社の配信記事を土台にしていることが分かる。例えば、以下。

   芸能取材の自主規制などを批判するなどして、近年テレビの出演番組は減ったが、携帯電話サイト「梨元 芸能! 裏チャンネル」を開設するなど、新しいメディアにも対応して情報発信を継続した。
   今年6月に肺がんを公表。その後も、ブログなどで病床から旺盛にリポートしていた。(共同)(東京)

   芸能取材の自主規制などを批判する発言でも知られた。近年、出演番組は減ったが、携帯電話で見られるサイトで情報発信を継続。今年6月に肺がんを公表後も、ブログなどで病床から旺盛にリポートしていた。(日刊スポーツ)

   芸能取材の自主規制を批判するなどの発言でも知られた。近年テレビの出演番組は減ったが、携帯電話サイト「梨元 芸能! 裏チャンネル」を開設するなど、新しいメディアにも対応して情報発信を継続した。
   今年6月に肺がんを公表後も、ブログなどで病床から旺盛にリポートしていた。(スポニチ)

   ここでも八百長が横行している(「近年テレビの出演番組は減った」と「近年テレビの出演番組は減らされた」とはその情報価値に天と地ほどの違いがある)ことを確認した上で、さて、「芸能取材の自主規制など」とは何か。

   上述の如き「三匹猿決め込み」のことだ。

   何を取材することを自主規制しているのか。

   大手芸能プロに関わる芸能ネタ(特に醜聞)の取材である。

   一応威勢のよさが売り物の『日刊ゲンダイ』も、

   梨元氏は大手芸能プロを批判したため、最近はキー局のレギュラーはなく、地方やネットに拠点を移していた。名古屋・メ〜テレの早朝ワイド「どですか!」、福岡・FBS「めんたいワイド」にレギュラー出演。」(注2)
   と、その筆致には切れの悪い小便程度の勢いしかない。

   さて、梨元氏の批判した大手芸能プロとはどこか。

   まずジャニーズ事務所(ジャニー喜多川社長)である。

   『週刊文春』の報じた「ジャニー喜多川の少年に対する性的虐待疑惑」をめぐり、故梨元勝氏はニューヨーク・タイムズ紙のインタビューに応じている(注3)

   ''If you're a television station and you don't comply with Johnny's Jimusho's wishes then all the popular stars will be withdrawn from your programs, your variety shows will not get any interviews with celebrities, and your ratings will plummet,'' said Masaru Nashimoto, an entertainment reporter. ''The same thing goes for publications,'' he added.

   「もしあなたがテレビ局関係者でジャニーズ事務所の意向に従わない場合、全ての番組から人気タレントを引き上げられ、バラエティ番組では有名人のコメントが取れなくなり、視聴率は急降下することになります。」と芸能リポーター・梨元勝氏は語った。「同じことは出版業界にも言えます。」と氏は言い添えた。(私訳)

   故梨元勝氏はさらに「ジャニー喜多川氏の少年に対する性的虐待疑惑」についても大胆に語っている。
   Mr. Nashimoto, the entertainment reporter, said he regretted that his and other media organizations had been reluctant to explore the sexual abuse allegations, even after the books making similar accusations against Mr. Kitagawa were published.

   ''If the mass media, including myself, had fully investigated these claims a long time ago, especially when the books first came out, then maybe we could have prevented other boys from suffering abuse,'' he said.(注3)

   芸能リポーター・梨元氏は、喜多川氏に対する性的虐待の告発本が出版された後でさえ、自分や他の報道機関がそうした疑惑を追及しようとしなかったことを後悔していると語った。

   「私自身を含めもしマスメディアがこうした申し立てをあの当時に、取り分け(告発)本が初めて出版された当時に十分調査していたら、おそらく他の少年たちが虐待されるのを防げたのではないかと思います」と氏は語った。(私訳)

   ジャニー喜多川氏の性的虐待の告発本として最もよく知られているのは『光GENJIへ 元フォーリーブス北公次の禁断の半世紀』(北公次 著、データハウス 、1988年)であろう。この告発本が出版差し止め請求の対象となったという形跡はなく、現在でも古書として容易に手に入ることを勘案すれば、梨元氏のように、ジャニー喜多川氏の性的虐待疑惑を疑惑としてではなくほぼ事実として語ったとしても、針小棒大の与太話とは言えそうもない。

   しかし、結果的に、氏はテレビのキー局を追放されることになる。 ジャニー喜多川氏の性的虐待疑惑を報じた『週刊文春』に宣戦布告し、名誉毀損で訴え、『週刊文春』のみならず文芸春秋社の他の出版物に対しても、ジャニーズ事務所のタレントへの一切の取材・接触を拒否するという挙に出たジャニーズ事務所(注4)の社長ジャニー喜多川氏の醜聞について自主規制抜きで遠慮会釈なしに語ってしまってはむべなるかな。《彼等》お利口さんたちは誰一人として『週刊文春』の告発の件も喜多川氏の訴訟の件も報道しなかった[None of Japan's other major news media have reported the magazine's accusations or Mr. Kitagawa's lawsuit.](注3)とニューヨーク・タイムズ紙は報じている。

   《彼等》は笑っていたのか、梨元のバカが、と。

   ニューヨーク・タイムズ紙に嘲られていることを知っていたのか、《彼等》は。

   Most reporters rely on official news sources and rarely dig up information beyond that provided by government agencies, corporations and public relations firms. Many reporters belong to official press clubs established by government ministries, and the reporters dutifully report what the ministries want to say.(注3)

   大多数の記者は公式の情報源に頼っており、政府機関、企業、広報企業によって与えられる以上の情報を探り出すことは稀である。多くの記者は各省庁肝煎りの公認記者クラブに所属しており、こうした記者は各省庁が伝えて欲しいと望むとおりのことを従順に伝える。(私訳)

   それがどうした、と《彼等》は開き直るかもしれない。日本の大多数の記者は木偶でくの坊だと言われているのだと教えてやっても、それがどうした、となお開き直るかもしれない。斯くなるを病膏肓こうこうと言う。

   ニューヨーク・タイムズ紙にこの記事が掲載されて三ヵ月半ほど後、二千年四月十三日(木曜日)「第147回国会 青少年問題に関する特別委員会」で 「ジャニー喜多川氏の性的虐待疑惑」と「ジャニーズ事務所による報道機関への圧力」が阪上善秀衆議院議員(自民党、兵庫県選出)によって取り上げられ(注5)、この国会質疑の一部は早速ニューヨーク・タイムズ紙によって報じられた(注6)

   政府参考人の役人答弁が耳目を引く。

   阪上委員:ジャニー喜多川氏は、親や親権者にかわって児童を預かる立場であります。児童から信頼を受け、児童に対して一定の権力を持っている人物が、その児童に対して性的な行為を強要する。もしこれが事実とすれば、これは児童虐待に当たるのではありませんか。

   真野政府参考人(注7):児童虐待の定義でございますが、先ほど来御説明をいたしておりますように、私ども、平成十一年三月に作成をいたしました「子ども虐待対応の手引き」において私どもなりの虐待の定義をいたしておりまして、この手引によりましては、親または親にかわる保護者などによって行われる身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクトを虐待というふうに規定をいたしております。
    今御指摘の件は、性的な行為を強要した人物がこの手引に言います親または親にかわる保護者などに該当するわけではございませんので、私ども、手引で言うところの児童虐待には当たらないというふうに考えております。(注8)

   児童虐待でなければ何だ、という疑問がわく。
   阪上委員:その判断はおかしいと思いますね。地方から単独で東京の事務所に出てきて預かってもらっておる人が、なぜ親がわり、親権者がわりにならないのか、私は大いに疑問であります。
    ジャニー喜多川氏の行為は法的に問題があると私は考えます。児童福祉法第三十四条第六号は、児童保護のための禁止行為として挙げておりますが、ジャニー喜多川氏の報道された行為が事実とすればこの法律に違反しているのではないかと思いますが、いかがですか。
   真野政府参考人:児童福祉法の三十四条では、「何人も、次に掲げる行為をしてはならない。」ということから、児童福祉を著しく害する行為を定めましてこれを法律上禁止いたしておりまして、同条の第六号には「児童に淫行をさせる行為」が規定をされておりまして、「淫行」とは、判例によれば、性交そのもののほか性交類似行為を含むというふうにされております。また、「淫行をさせる行為」とは、児童に淫行を強要する行為のみならず、児童に対し直接であると間接であるとを、また物的であると精神的であるとを問わず、事実上の影響力を行使して児童が淫行することに原因を与えまたはこれを助長する行為を包含するという判例もございます。
    御指摘の個別事案につきまして、それを判断するための情報がございませんが、一般論といたしましては、児童に対しまして今申し上げたような性交類似行為をするということは、児童福祉法三十四条の六号に違反しているというふうに考えられると思います。
   「児童虐待」ではなく「淫行」ということだ。従って「ジャニー喜多川氏の淫行疑惑」ということになる。    この質疑の後、この疑惑は如何に解明の努力がなされたか。

   何も。

   この質疑に続くのは、梨元勝氏の訃報、そこにジャニー喜多川氏或いはジャニーズ事務所の「ジ」の字も見当たらない。

記 二千十年八月

(注1)
@芸能リポーター・梨元勝さんが死去(yomiuri.co.jp、2010年8月23日09時24分 読売新聞)
A訃報:梨元勝さん65歳=芸能リポーター(mainichi.jp、毎日新聞 2010年8月23日 10時04分)
B梨元勝さん死去、65歳 肺がんで闘病中(asahi.com、2010年8月23日10時39分)
C芸能リポーター梨元勝さん死去 65歳、肺がんで(tokyo-np.co.jp、2010年8月23日 10時07分)

D梨元勝さんが死去、65歳 死因は肺がん(sanspo.com、2010.8.23 07:46)
E芸能リポーターの梨元勝さんが死去(hochi.yomiuri.co.jp、2010年8月23日10時50分 スポーツ報知)
F梨元勝さん死去 肺がんで…65歳(nikkansports.com、2010年8月23日11時4分)
G芸能リポーター・梨元勝さん 肺がんで死去…65歳(sponichi.co.jp、2010年08月23日 08:55)
H芸能リポーター梨元勝さん死去 65歳、肺がんで(chunichi.co.jp、2010年8月23日 10時07分)
I芸能リポーター梨元勝さん死去 65歳、肺がんで(daily.co.jp、2010年8月23日)

(注2)
芸能リポーター事情はどうなっているのか(gendai.net、2010年8月28日 掲載)

(注3)
In Japan, Tarnishing a Star Maker (By CALVIN SIMS, nytimes.com, January 30, 2000)

(注4)
Since the articles began appearing in late October, Mr. Kitigawa's agency has declared war on the magazine. It has accused Shukan Bunshun of publishing lies, filed a libel suit and denied its requests for promotional photos and interviews with acts managed by Mr. Kitagawa. The magazine's sister publications have also been denied access to Mr. Kitagawa's groups.
(In Japan, Tarnishing a Star Maker, By CALVIN SIMS, nytimes.com, January 30, 2000)

(注5)
第147回国会 青少年問題に関する特別委員会 第5号 平成12年4月13日(木曜日)
(http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/007314720000413005.htm)

(注6)
Lawmakers In Japan Hear Grim Sex Case (By CALVIN SIMS, nytimes.com, April 14, 2000)

(注7)
真野章厚生省児童家庭局長  

(注8)
この箇所、ニューヨーク・タイムズ紙では次のように紹介されている。

Mr. Sakaue tried to pin down the officials, saying that if someone with ''a certain amount of authority over children'' acts to force ''a child to have sexual activities, wouldn't that be considered child abuse?''

In response, a Welfare Ministry official said that according to agency guidelines child abuse was defined as acts performed by parents or guardians. ''Mr. Kitagawa can't be categorized as a parent or a guardian, and therefore this issue can't be classified as child abuse,'' said the official, who was not identified.

"the official, who was not identified" は誤り。この官僚の役職と氏名は判明しており、真野章厚生省児童家庭局長である。カルヴィン・シムズ記者の取材不足。


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