『破れかぶれ時事想論』 (野島明) 
目次頁に戻る
この頁の末尾

二千十年六月

*

《ビッグ・ブラザー》らしきものの影

   あれは何だったんだ、という記事がごく稀にある。ニューヨーク・タイムズ紙の社説"Hugo Chávez Departs"(注1)はその一例。

   軍の介入により、ヴェネズエラに破滅をもたらすだけの扇動政治家フーゴ・チャベスは退陣した……。(注2)
という《喜色満面》と見えぬでもない社説を掲載したはいいが、チャベス退陣は一瞬のことで、直ちに復権。この社説から八年、未だヴェネズエラの大統領である。

   これは誤報というより、勇み足というべきである。あってはならぬ勇み足であり、自らをThe Timesと称するニューヨーク・タイムズ紙には痛恨の一事のはずだ(注3)

*

   あれは何だったんだ、という出来事がある。各種報道媒体が当然報ずるはずのことがまったく報道されないという事態である。

   6月11日(10日であったかもしれぬ)の早朝のTBSテレビで(と記憶している)、自民党の国会議員の集まりで議員らしき人物(私の知らぬ顔であった(注4))が、凡そ「あいつ等は人間の皮をかぶっているが人間じゃないんだ……」、の如き、正気とは思えぬ雑言を喚きちらすのを、私は確かに目撃した。「あいつ等」とは民主党議員のことであった。

   この発言は当然新聞等で報じられているであろうと11日、12日、とウエッブ版全国紙に一通り目を通しはしたものの、果たして私が目撃したと思っているのは何かの錯覚ではなかったかと思わされるほど、どこにも報じられてはいなかった。その後テレビでも報じられるのを見ていない(テレビに張り付いているわけではないから、いつか何処かで報じられたのかもしれないが)。

   以前であれば、早朝であったから、私が寝ぼけていたのかも知れぬと思ったりしたかもしれぬが、今やそうはいかぬ。大報道媒体打って一丸、この件を報道しないという取り決めをしたと考えるべきであるという結論に達した(『報道媒体検証』参照)。

*

   sankei.jp.msn.comの報ずるところによれば、

   民主党の犬塚直史参院議員(長崎選挙区)の私設秘書の男性(38)がミニブログ「ツイッター」で議論をしていた一般人を相手に「SOB(ろくでなし)」と罵倒(ばとう)する投稿をし、謝罪していたことが分かった。(注5)
   「あいつ等は人間の皮をかぶっているが人間じゃないんだ……」という類の物言いが、歴史的に如何なる分野の人人の向けられてきたかを思えば、また膨大な数の《民》の代表たる多数の国会議員に対して向けられたことをかんがみれば、
   (民主党の犬塚直史参院議員(長崎選挙区)の私設秘書の)男性は5月29日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題について、ツイッター上で一般人と議論をしていた際に、英語で「ばかげたSOBを相手に思考力を浪費する必要はない」と投稿した。SOBは「son of a bitch」の略。「ろくでなし」などを意味する俗語で、相手をののしるときに使われる。
   これに対し、他のツイッター利用者らが「民をSOB呼ばわりとは」などと批判。男性は翌30日、一連の投稿をまとめたサイト上で「大人げなく、また公的立場上不適切なことであったと反省しております」などと謝罪した。(注5)
といった一件を報ずるだけの暇があるなら、私の目撃したの雑言も報ずるべきである、と言ってみようとして、はたと思い起こす。《彼等》には報ずるべきことを報ずる暇などないこと、報じたいことを報ずる暇しかないこと『報道媒体検証』中の特に「主流報道媒体打って一丸の実にお見事な「情報統制」もしくは「報道自主規制」」、「ないものねだり――英語力と冷静」、「見出しは《彼等》の匙加減一つ」、「梨元勝はなぜテレビから締め出されたのか」参照)

   巨大報道媒体が打ちそろって極めて悪質な情報操作に報道の自主規制に明け暮れているのを日日いよいよ確かめざるを得ないのは決して楽しいことではない。鏡に映る己の姿に《彼等》は時にうっとりしているかにも見える。目を背けるくらいであればまだしも救いの余地が残されているであろうに。

記 二千十年六月

(注1)
Hugo Chávez Departs (Editorial, nytimes.com, April 13, 2002)

(注2)
"Mr. Chávez, a ruinous demagogue, stepped down after the military intervened and handed power to a respected business leader, Pedro Carmona." (ibid)

(注3)
この社説、削除されており見つからないのではないかと予想しつつニューヨーク・タイムズ紙のウエッブページを検索したら、削除されてはおらず、簡単に見つかった(6月12日)。

(注4)
その後、TOKYO MXTVの何かの番組でその人物を見かけた。氏名も判明した。この御仁、威勢のよさが売り物らしい。

(注5)
ツイッターで民主党秘書が有権者を「SOB」と罵倒 「かっとなって…不適切だった」と謝罪 (sankei.jp.msn.com, 2010.6.11 22:29)


この頁の先頭

目次頁に戻る / 表紙頁に戻る
 
© Copyright Nojima Akira
(許可なく複製・転載することを固く禁じます)