『TVドラマ寸評』 (野島明) 
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2007年 新春ドラマ評

『マグロ』、その他

時に、あるいはしばしば、我が目を疑いたくなるほどのお間抜けが世をまかり通る。ブッシュ(43)政権のイラク占領政策(注1)といったお間抜けの列に、出来立てのテレビドラマが一本加わった。『マグロ』(主演:渡哲也、テレビ朝日系、一月四日、五日)である。

これがいかほどお間抜けな出来であったかは、このドラマに加えて、たまたま『小さな旅「タマ風 吹く海に〜下北半島 脇野沢〜」 下北半島厳冬タラ漁』(NHK,一月七日08:00〜08:25)を見る機会を持った人なら容易く実感し得たはずである。

切り出されたままの現実がドラマではないことは、ドキュメンタリの場合と同じである。現実の片端を切り取り、技の限りを尽くし加工して作り上げるものがドラマであるから、まともなドラマを作ろうとしたら、一つ一つのドラマに惜しみなく技を注ぎ汗を流すことが不可欠の要件である(も少し制作の効率を上げたいのであれば、例えば「歌舞伎」の世界にでも活動の場を移すほかあるまい。私の興味を引いてやまない「歌舞伎」のことをそのうち語ってみたい)。

下北半島に限るわけでもなく、地球上の多くの地域で、庶民は『マグロ』に出演した俳優たちほどに、大きく口を開けて、あれほど滑舌のよい話し方をするわけではない。松坂慶子の「かあちゃん」ぶりも高橋克典の「漁師のあんちゃん」ぶりも、その「演技」は上出来とは程遠いものであった。『マグロ』にはたくさんの俳優が出演して、あれこれ演じはしていたが、下北半島とは縁もゆかりもない俳優さんたちがとりあえず演技というお仕事を、別の言い方をすると遣っ付け仕事を、していたに過ぎない。

見たものの口から、《マグロ》は御免こうむりたい、などという下卑た物言いが飛び出しても、見る方よりは作った方にその責があると言いたくなるほどお粗末の限りの出来の大作ドラマであった。

昨年末、主演俳優たる渡哲也はテレ朝のあちこちの番組に顔を出し必死の番組宣伝をしていたが、あの程度の出来のドラマに果たしていかほど満足していたのやら。出来のお粗末に気付かないとしたら、あるいは、気付いていながらもそんなドラマを必死に売り込まねばならぬとしたら、いずれにせよ、惨めなことだ。

できばえを云々する以前の水準のドラマであった。

『堀部安兵衛』(主演:小澤正悦、NHK総合、一月一日)は予想を裏切って好ましい出来栄えだった。手垢がついていると評してもいいほどの題材であったのでまったく期待していなかったが一気に見終えた。原作(池波正太郎)の出来に負うところ多いであろう。

『(新春ワイド時代劇)忠臣蔵、瑤泉院の陰謀』(主演:稲森いずみ、テレ東系、一月二日)も、『堀部安兵衛』と同様、少しく視点を変えて物語を構成したことが奏功しており、まずまずの出来栄えだった。この時間枠の時代劇は例年ただ長いだけという印象しかないが、毎度おなじみの忠臣蔵という題材でありながら、善戦健闘と評してよい。稲森いずみの力演にして好演が光った(大いなる褒め言葉である)。

『(新春ドラマスペシャル)明智光秀』(主演:唐沢寿明、フジ系、一月三日)は冗談のようなドラマであった。つまり、笑ってしまった。一月二日と三日の午前から午後にかけて『西遊記』と『電車男デラックス』の再放送でお茶を濁すという手抜きをしたフジテレビが、少しくらいは埋め合わせましょうという感じで、目いっぱい手を抜いた時代劇を、売れっ子俳優をたっぷりちりばめて作り上げていた。フジテレビはよほどお金が余っているのであろうな。『アンフェア』のスペシャル版は、年末ではなくて、この時間帯に再放送すべきであったのに、とも思うが、正月三日に朝から晩まで再放送のドラマでは余りにも後ろめたく感じたのであろう。

上川隆也の信長は秀逸であった。合理性のみならず危うさと冷徹の色濃い信長を上川に演らせるのも一興であろう。

『(新春ドラマスSP)三日遅れのハッピーニューイヤー!』(主演:石垣佑磨、TBS系、一月三日)は無視。番組の存在にも気付かなかった。

『(新春ドラマスペシャル)佐賀のがばいばあちゃん』(主演:泉ピン子、フジ系、一月四日)は無視。番組宣伝によれば説教臭紛々のばあちゃんのドラマということで、見たいという気も失せていた。

『(ドラマスペシャル)白虎隊』(主演:山下智久、テレ朝系、一月六日、七日)は無視。見たいと思わず。その理由を敢えて挙げれば、主演俳優に興味がない、ということになろう。

以下、シリーズものの「スペシャル」。

『相棒V元旦スペシャル、バベルの塔』(主演:水谷豊、テレ朝系、一月一日)は相変わらすのよい出来。『相棒』は元旦の「ゴールデン」を占めるほどの地位に上り詰めたということになる。すでに『相棒』は水谷豊の代表作である。

『瑠璃の島スペシャル2007』(主演:成海璃子、日テレ系、一月六日)録画したまま、未視聴。
*九月初旬、機械に録画テープを入れて見始めはしたが、五分ほどで視聴放棄。一時間数十分を費やそうという気には到底なれなかった。


(記 2007年3月)


(注1)
私がお間抜けと評すのは「イラク占領政策」である。「イラク政策」全般ではない。



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