(続)折々のコラム(野島明)
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今回はゼンショーの件に留めておくとして……
牛丼チェーン店「すき家」を運営する「ゼンショー」(東京)が、残業代が未払いとして同社を刑事告訴した仙台市の女性アルバイト(41)に対し、店のコメをおにぎりにして持ち帰ったなどとして、窃盗容疑などで仙台地検に刑事告訴し、不起訴になっていたことが16日分かった。(注1)
   その唯一の企業経営方針が「もっと、もっと、もっと(more, more, more)」(注2)である企業経営者の精神のすさみを窺わせるに十分な出来事である。ゼンショーの経営に携わるヒトたち、「もっと、もっと、もっと」が何をもたらしたのか、何一つ学んではおるまい(注2)し、そもそも学ぶ気もあるまい。

   例えアルバイト従業員が「商品用のご飯どんぶり5杯分を無断で食べた」(asahi.com)(注1)のが事実であるにせよ、注意すれば済むほどのことであろうし、それで気がすまぬのであれば解雇して一件落着という程度の出来事である。

   なにゆえにゼンショーは出来事の《重大さ》の程度に見合う措置ででこの一件を処理しようとせず、告訴というどうにも夜郎自大めいた振る舞いに及んだのか。この女性アルバイトが「残業代が未払いとして同社を刑事告訴した」(sankei.jp.msn.com)(注1)ことへの意趣返し、見せしめであると私は判断する。この企業、けつのあなが小さい、狭いどころではない。穴のあななどなさそうである。

   この出来事は、ゼンショーの管理する労働現場の荒廃を推測させて余りある。もともと乏しいその想像力が、「もっともっともっと」という限りを知らぬ強欲によって無残にも無きものとされているヒトたちの操る金儲けの現場では、次のような出来事が無数に出来して何の不思議もない。

従業員が鼻をほじくり、鼻くそを調理中の食品にふりかける (注3)
   ドミノピザの調理場におけるかような行為に類似したありとある行為が、世界中のありとある調理場で、特に、働き手が劣悪な労働条件下で働くことを強いられている調理場で、日夜繰り広げられていることを、私は疑わない。手打ち麺の練り生地に額から垂れた汗が手脂が少々の手垢が混じりつばが飛ぶなどというのはお愛嬌で、不潔とか清潔とか言う以前の、数千年来繰り返されている在り来たりの現実である。料理にフケを耳垢をふりかけようと、つばを痰を吐きかけようと、味も大して変わるまいし、ましてや(たいていの場合)健康に被害を及ぼすこともあるまい。健康被害も食中毒も生じなければ、事件にもならないという次第である。低賃金で酷使されついには使い捨てられる働き手のささやかで無益な憂さ晴らしであろう。

*

   ところで私が外食するのは、「すき家」「吉野家」「松屋」だけである。何恥ずるところもない貧乏人の私に、一杯600円700円のラーメンは高価にすぎるから、ラーメンは自宅で調理して食べるだけである。その私が「すき家」を利用するのを止めようと思ったことがある。

残業代など不払い、「すき家」のゼンショーを刑事告訴(注4)
という記事を読んでのことである。が、手近な所にあり手ごろな値段で食事できるため、その後も「すき家」を利用し続けて今日に至りはしているものの、今回はもう一度、利用するのを止めようという気になっている。果たして、この心積もりがいつまで保たれるものやら、我ながらかなり疑わしくもあるのだが、「すき家」で働く人たちの置かれている労働環境を思うと、何だか、気持ちよく食事できようとも思えぬが故のたった一人の抗いである。

   かくして「すき家」を利用するのは控えようと思っている私だが、私の出没する地区には「すき家」が増殖を続けており、はて、どれほどこの思いを貫徹できるか、現時点では不明である。

*

   実は、トヨタについても述べておきたいことがあるのだが、機会を改めて、ということにする。なぜゼンショーとトヨタがつながるかって?立派につながるのさ。お楽しみに。

記 〇九年四月十七日(金)

(注1)
会社告訴の店員を逆告訴 「すき家」のゼンショー(sankei.jp.msn.com、2009.4.16 12:36)
すき家ゼンショー、告発した店員を告訴「飯5杯盗んだ」(asahi.com、2009年4月15日21時0分)
すき家「無断でどんぶり飯5杯食べた」と店員告訴→不起訴(yomiuri.co.jp、2009年4月17日08時57分 読売新聞)

(注2)
私が想起するのは次のような観点である。

We carry on accumulating and accumulating, because it's what we've grown to think will give us happiness, but it works less and less. And, after a while, this unhindered chasing of more, more, more by the very richest begins to make us miserable -- and corrodes some of the other basics we need as humans.
(The one lesson of this crisis is the need for a more equal society by Johann Hari The Independent, April 15, 2009 )
有り余る財貨を所有しながらまだまだ満たされぬ強欲はさながら「下らざるべからざる下り坂[a slippery slope]) 」であろうか。とすれば、正に、ヒトの情念である。

(注3)
"one of its employees picking his nose and placing the result in the food he's making" (Domino's nightmare holds lessons for marketers, By Bruce Horovitz, USA TODAY, 2009-04-15)

(注4)

牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショー(東京)が、残業代などを適切に支払わなかったとして、すき家仙台泉店(仙台市)のアルバイト3人が8日、同社を仙台労働基準監督署に刑事告訴した。1人は店長だったため、他店への応援では無賃金の勤務を指示されたという。
   告訴したのは、仙台市内に住む男性1人と女性2人で、労働組合「すき家ユニオン」(組合員17人)のメンバー。
(残業代など不払い、「すき家」のゼンショーを刑事告訴, asahi.com、2008年04月08日21時56分)
何のことはない。「商品用のご飯どんぶり5杯分を無断で食べた」として「すき家」に告訴されたのは、「残業代など不払い」であるとして「すき家」を告訴したアルバイト(非正規従業員)の一人とどうやら同一人物であるらしいのであった。
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