(続)折々のコラム(野島明)
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トヨタと同じかも。主流報道媒体即ち大マスコミ 

   合衆国で絶大な人気を誇るラジオ時事放談番組司会者ラッシュ・リンボー(注1)が繰り広げる主流報道媒体[main stream media]批判は片腹痛いだけのものだ。が、緩慢に、かもしれぬせよ着実に広がっていると思われる批判的眼差しと声に馬耳東風を決め込まんとするという姿勢において、日本の主流報道媒体=大マスコミ(注2)は、己とあのトヨタとの間に如何な線引きをしようというのであろうか。

@北九州、殺人容疑で追突の男逮捕 バイクの2人死傷 (tokyo-np.co.jp、2010年2月21日 19時26分)(注3)
A「オートバイがうっとうしくてひき殺そうとした」 追突犯を逮捕 (sankei.jp.msn.com、2010.2.21 17:34)
B蛇行オートバイに追突、少年2人死傷させる (yomiuri.co.jp、2010年2月21日20時02分 読売新聞)
   @の見出しを見て、あ、凶悪な殺人事件だ、と思わされ、Aの見出しを見て、ちんたら走っているバイクがあるからなぁ、と思い直しを促され、Bの見出しを見て、はたと概ね合点が行く。即ち、暴走族に堪忍袋の緒が切れたということであろうか、と。

   「爆音を鳴らして蛇行」((注3)のBの記事参照)するという、いわば他の運転手の忍耐力を試すような走り方は、バイクによる車の間を縫っての走行が、他の運転手の瞬間的な気まぐれ(例えば車線変更)と不運な同調が生じない限りにおいてのみ、辛うじて無事なものであり得るのであるように、他の運転手が忍耐し続け得る限りにおいてのみ、何事もなしに続け得るのである、しかし、ある運転手の咄嗟の気まぐれによる車線変更という事態は生ずる可能性の大いにあることであり、爆音を鳴らして蛇行するバイクに堪忍袋の緒が切れるという事態もまた、その頻度はともかく、生ずる可能性のあることである。ただ、バイクを緩慢な速度で、爆音を立てながら、それも集団で蛇行運転する若者たちの想像力はそのような可能性にまで及ぶことは稀であろうということだ。エンジンを無闇にふかして爆音を立てながらバイクを蛇行運転する行為と、最高度の知的活動である想像力は両立し難い(注4)

   例えば、格別の理由もなしに後方から警笛を鳴らし続けたらどうなるのか、に思い及ぶ想像力。

   ごく深いところで発生した微少きわまる殺意の粒が、浮かび上がる過程でわずかずつ膨れ上がり、ついには強固であるはずの殻を突き破って噴出することがある、など、彼等の想像力には到底及びもつかぬ可能性であろうか。

*

   格別な解釈を要せぬ出来事を報ずる記事においてさえ、斯かる差異だ。日本の主流報道媒体即ち大マスコミの伝えることについては、眉にたっぷり唾をつけて受け止める用意が不可欠である。特定のマスコミを通じてのみ情報を得るなど論外である。

   斯かる疑念に果たして日本の主流報道媒体は如何ほど真摯に耳を傾けていようか。あのトヨタが種種くさぐさの苦情に《真摯に耳傾けていた》のと同じくらい耳傾けているのであろうか。


記 二千十年三月

(注1)
「合衆国侵略軍は即刻イラクを撤退せよ」(『(続)折々のコラム』)の(注0)参照。

(注2)
合衆国の主流報道媒体は、The New York TimesThe Washington Postがそうであるように、影響力は大きいにせよ、必ずしも巨大マスコミではない。が、日本の主流報道媒体はそろって大マスコミである。

(注3)
@北九州、殺人容疑で追突の男逮捕 バイクの2人死傷  (tokyo-np.co.jp, 2010年2月21日 19時26分)
    21日午前1時ごろ、北九州市小倉北区霧ケ丘3丁目の国道10号で、乗用車が福岡県築上町西八田の家事手伝い植田涼介さん(18)と北九州市戸畑区の無職少年(17)のオートバイ2台に追突、転倒させて逃走した。植田さんは間もなく死亡し、少年は頭や首に軽傷。
    小倉北署は殺人と殺人未遂の疑いで、直後に小倉南署に自首してきた自称マッサージ師鎌田厚志容疑者(34)=北九州市小倉南区下曽根=を逮捕した。小倉北署の調べに「オートバイがうっとうしくて1人をひき殺そうとしたが、もう1人を殺す意思はなかった」と話しているという。
    同署によると、鎌田容疑者は仕事を終えて帰宅途中、仲間数人と走行していた植田さんらに出くわしたとみられる。 (共同)

A「オートバイがうっとうしくてひき殺そうとした」 追突犯を逮捕 (sankei.jp.msn.com, 2010.2.21 17:34)
    21日午前1時ごろ、北九州市小倉北区霧ケ丘の国道10号で、乗用車が福岡県築上町西八田の家事手伝い植田涼介さん(18)と北九州市戸畑区の無職少年(17)のオートバイ2台に追突、転倒させて逃走した。植田さんは間もなく死亡し、少年は頭や首にけがを負った。
    県警小倉北署は殺人と殺人未遂の疑いで、直後に小倉南署に自首してきた自称マッサージ師の鎌田厚志容疑者(34)=北九州市小倉南区下曽根=を逮捕した。同署の調べに対し、鎌田容疑者は「オートバイがうっとうしくて1人をひき殺そうとしたが、もう1人を殺す意思はなかった」と話しているという。
    同署によると、鎌田容疑者は仕事を終えて帰宅途中、仲間数人と走行していた植田さんらに出くわしたとみられる。

B蛇行オートバイに追突、少年2人死傷させる (2010年2月21日20時02分 読売新聞)
    前を走るオートバイ2台に乗用車を追突させ、少年2人を死傷させたとして、福岡県警小倉北署は21日、北九州市小倉南区、自称マッサージ師鎌田厚志容疑者(34)を殺人と殺人未遂容疑で逮捕した。
    「オートバイが爆音を鳴らして蛇行していたので、頭にきてひき殺そうと思った」と供述しているという。
 発表によると、鎌田容疑者は同日午前1時頃、同市小倉北区の国道10号を走行中、前を走っていた同県築上町、家事手伝い植田涼介さん(18)のオートバイに車を追突させ、転倒した植田さんを数十メートル引きずるなどして出血性ショックで殺害した疑い。また、同市戸畑区の無職少年(17)のオートバイにも追突して転倒させ、頭などに軽傷を負わせた疑い。
    同署によると、鎌田容疑者は小倉北区内の職場から帰宅する途中で、現場の数キロ前からオートバイ十数台で走行していた植田さんらに遭遇したという。犯行直後に県警小倉南署へ自首した。

(注4)
「太鼓の彼此あれこれの思案を散らす。ればこそ、この鳴り物はすぐれていくさのものなれ。」 (野島明訳, Joseph Joubert, Carnets II, p.261)


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