(続)折々のコラム(野島明)
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「キショール・マフバニ」と「テングザル」 

   Sankei Web(八月十八日)の表紙頁に、「中韓の発展、日本に感謝を」 (注1)という、私の興味を引くのに十分な表題の記事を見かけた。「キショール・マフバニ」氏の論文「アジアの再生」を、その一部を引用して紹介した記事だった。

   「キショール・マフバニ」を手がかり語にしてGoogleで関連情報を検索した。検出件数は二百数十。ぱらぱらと主な頁を覗いた限りでは、マフバニ氏の論文「アジアの再生」原文を読んだ上での分析やら感想はひとつとして見出せず、全てが Sankei Web の記事全文もしくはその一部を紹介する(「垂れ流す」の方が適語)ものだった。

   多少の手間を惜しみさえしなければ「マフバニ」氏の論文は探し出せる。「マフバニ」の正確なローマン・アルファベット表記を推測することは難しいであろうから(せいぜい、"Mahubani"、くらいしか思いつかない)、"japan, world war, world war II"などを手がかり語に Time 内を検索すれば見つかるはずである。

   私がとった手段は、実際には、 Time を開いて、直接当該論文を探すというものだった。途中経過は省くとして、なんとこの手段では当該論文を見つけられなかった。基本をおざなりにした報いである。

   私は、次に、Google"Mahubani"を検索した。性懲りもなく、基本をおざなりにしたことになる。「もしかして: Mahbubani」という表示に助けられ、「キショール・マフバニ」のアルファベット表記は"Kishore Mahbubani"であることが判明、次いで Time 内を検索した。こうして見つけたのが1900語ほどの短い論文"The Making of Modern Asia" (注2)である。

   ここまで、たいした手間を要したわけではない。であるからして、「原論文を丁寧に読んでみたが、……」といった感想を掲載したウエッブ頁の一つくらいあってもよさそうなものだが(注3)、ついに容易には見出せなかった。どこかにあるのかもしれない、としか呟けず、どこかにあるに違いないと断ずることのできないのが残念である。しみじみ思い知らされた現実。豊かなウエッブの世界(注4)の「貧困」の証左となる現実の一端である。

   ところで、私は近隣にある書店を数件回って尋ねてもみた。この数件の中にはまずまずの規模の書店も二件含まれている。雑誌 Time を購入しようと思ったのである。置いている店は一軒もなかった。紙媒体を通して情報を得ることの方が今や遥かに困難――これも現実の一端である。

「テングザル」をGoogleで検索する。検出結果は約3800件。目立つのは「ボルネオ旅行」を販売する旅行会社の頁。「テングザル」に関する詳しい情報を得たい私にとって役に立ちそうな頁は見当たらないという恐るべき現実。

   さて、「テングザル」の英語名を調べるにはどうすればいいのか。日本語の大百科事典の「テングザル」の項には英語名も記されているだろうが、私の手元に日本語の大百科事典はない。「テングザル」に関する(目を通した限りの)日本語ウエッブ頁に「テングザル」の英語名は見当たらない(注5)

   「テングザル」の生息地"borneo"を手がかり語にGoogleで検索、"proboscis monkey"が英語名であることを突き止める。更に"proboscis monkey"を手がかり語にして検索。検出結果、29900件。私の役に立ってくれそうな頁もふんだんにある。なぜ「テングザル」の英語名が必要なのか、の理由である。

   「テングザル」について言えば、「英語を読めない」は「求める情報を得られない」に等しい。良かれ悪しかれ、これが現実である。

記 〇五年八月

(注1)
「中韓の発展、日本に感謝を」 米誌タイム・アジア特集(http://www.sankei.co.jp/news/050818/kok028.htm ) (記事の最後に、2005/08/18 東京朝刊から、とある)

(注2)
The Making of Modern Asia (by KISHORE MAHBUBANI, TIME Asia Magazine, issue dated August 15-August 22, 2005 Vol. 166, Nos. 7/8)

"MAHBUBANI"のカタカナ表記は「マフバニ」より「マブバニ」の方が適切に思える。また、論文名は「アジアの再生」より「現代アジア、その成功の要因」とでも和訳すべきである。

ちなみに、Google"KISHORE MAHBUBANI"を検索すると、その検出結果は18400件。

(注3)
"The Making of Modern Asia"は日本を格別褒め上げているわけではない。今のアジアを冷静に分析している論文である(その分析の適否は各自が評価を下すべきことである)。

(注4)
以下に述べるテングザル[Proboscis Monkey]に関する頁もあるサイト Blue Planet Biomes の表紙頁には、「このサイトは学生に、情報のやり取りにも学習にも役立つ手段としてのインターネットの威力を教えることを目的として作成された[This site was created to teach students the power of the Internet as a tool for both communication and learning,]」という記述が見られる。

もちろん、この「威力」は「英語」を媒介にしてこそ十分な活用が可能となるのであり、そうやって初めて「ウエッブの世界の豊かさ」を実感できることになる。

(注5)
日本語版Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/)に「テングザル」の項目は存在しなかった。

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