(続)折々のコラム(野島明)

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A Dialogue Unplugged (1)

―ぶっちゃけ―


我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……  

甲:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……。

乙:失礼ですが、「我我」とはどちら様ですか。

甲:我我を知らないのか。五千年の歴史、十五億の人口と一千万平方キロの領土 (注1)、数百万の兵力、核兵器、大陸間弾道弾(ICBM)更には核ミサイル搭載潜水艦を有し、有人衛星の打ち挙げ実績があり、国連常任理事国でもある我我のことだ。
   我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……。

乙:はぁ。あなたがたは侵略されたんですか。

甲:要するにだ、我我が侵略することは認められても、侵略されることは認められてはならないのである。

乙:はぁ、よく分かりました。で、侵略したことはあるんですか。

甲:失敬な。わが国の歴史教科書には「侵略される」という文言はあっても、「侵略する」という文言はないのである。我我は解放することがあっても、侵略することはないのである。
   ところであんたは?

乙:きっとご存知ありませんよ。時を遥かに遡れば私たちは血縁関係にあったかもしれません。モンゴロイドの一員たる私たちの遠い祖先はアジアの大地からはるばるこちらまで移動してきたようですから。

甲:いいから名乗りなさいって。あんたの国はどの辺にあって、領土はどれくらいの広さで、人口、それに兵力はどれくらいなのかね。あんたの国も侵略されたんだろう。大声で抗議しなくちゃ。

乙:国やら領土というのは私たちの土地のことでしょうか。人口というのは私の部族の仲間たちの数ことでしょうか。侵略というのは土地をすべて奪われ仲間を皆殺しにされるということでしょうか。

甲:そんなことされたのなら断固抗議すべきだ。

乙:あなたがたの場合、抗議して何とかなったんですか。

甲:まあ、向こうは一応反省しているなんて言ってるがね。口先だけさ。心の底から反省するまで抗議は止めないよ。心の底から、だ。

乙:口先だけの反省なのか、それとも心の底からの反省なのか、どうやって見分けるんですか。

甲:当然、我我が判断するのだ。相手の反省を我我が口先だけのものと判断すればそれは口先だけのものであり、我我がそれを心の底からのものではないと判断すればそれは心の底からのものではないのだ。

乙:はぁ……。侵略された私たちの部族はうに絶滅したと思われているんですが、実は、私の祖先を含め、わずか十数名、生き残りはしたんです……。
   私たちは侵略されましたから、土地もすべて奪われ、仲間も殆ど殺されました。以来二百年、僅かな生き残りも私一人きりになりました。
   何で抗議しないのかですって。どう抗議しようと、あの人たちは侵略したなんて認めやしませんし、そもそも絶滅したと思われていますから、相手にもしてくれません。もし抗議をしようものなら、保障金狙いの詐欺師扱いされるのが関の山ですよ。絶滅したと思われているんですから。
   万が一私が部族の末裔と認められ、あの人たちの耳に抗議が届いたにせよ、侵略される方が間抜けなんだと嘲られて終わりですよ。
   別に疑うわけではないんですが、確認させていただきたいので、改めてお尋ねしていいですか。

甲:あぁ、お尋ねしてくれお尋ねしてくれ。

乙:あなたがたが侵略されたというのは本当なんですか。

甲:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された。五千年の歴史、十五億の人口と一千万平方キロの領土、数百万の兵力、核兵器……。

記 〇五年十一月二十日(日)

(注1)
WorldAtlas.com (http://worldatlas.com/webimage/countrys/asia/cn.htm) によれば、某国の人口は1,319,132,500人、国土面積は9,326,410平方キロ。

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