(続)折々のコラム(野島明)

「(続)折々のコラム」の目次頁に戻る

この頁の末尾

ハングル(語)、韓国語、朝鮮語、コリア語、「この言語」 

   2005年4月開講のNHKラジオ外国語全15講座(英語講座を除く)の講師陣の男女比は10対6(注1)、NHKテレビ外国語全8講座(英語講座を除く)については4対4(注2)である。ずっと以前はこうではなかった。講師はすべからく男だった(という記憶がある)。

   ラジオフランス語講座の朝倉季雄先生(不幸な事件とともに思い起こさねばならないのが残念である)、テレビ中国語講座の藤堂明保先生(歯並びの悪い優しいお顔が印象的であった)(注3)、テレビ英会話初級の田崎先生(笑顔と滑舌のよさ)、テレビ英会話中級(この番組で"preposterous"という形容詞を覚えた)の国弘先生とジョン・マイルズ先生、同番組に時折りゲスト出演したワシントンポスト紙特派員トム・オーバードーファー氏(国弘先生はしばしば氏の南部アクセントに注意喚起なさった)……。

   ところで、「ハングル講座」(注4)では朝鮮半島で用いられている「ハングル」という音標文字を学ぶと同時に「何語」を学習するのか(ちなみに「英語講座」では「米語」を、「ポルトガル語講座」ではおそらく「ブラジル語」学習する)。 ラジオハングル講座が誕生した頃からのこの疑問は今もって解消していない。単に「ハングル」なのか、それとも「ハングル語」なのか。「韓国語」なのか「朝鮮語」なのか。「コリア語」(注5)なる呼称すら目にするし、「ハングル講座 入門編」のキム・ドンハン講師はきまって「この言語」と呼ぶ(注6)。南北間の話し合いでせめて日本での「ハングル(語)・韓国語・朝鮮語」の呼称の統一を図るくらいのことはできないか。

   あれこれの講座を聞きかじっていると、もの言わぬと腹ふくるる心地してきて、多少の外国語講師体験をもとに各講座の出来不出来を論じて(講師に点数をつけて)やろうかなどという気にさせられる。いかにも意地の悪い思いつきでしかないし、あれやこれやの事情があってテレビ講座は全く見ていない(「アラビア語会話」を一回半ほど何かのついでに横目で見た)からやめておくとして(テレビの連ドラの出来映えについてはそのうち勝手な感想を述べてみたい)、「アラビア語会話」に関する疑問を一つ。

   生徒役の柳家花緑にアラビア文字を書かせているが、師岡カリーマ講師がなぜ手本を示さないのかという疑問(一回半ほどの視聴体験をもとにした疑問である)。筆先の動かし方や筆順が分からないのである。余計なことを慮ってしまう。女性が人前でアラビア文字を書くことは禁じられているのではあるまいか……。そんな疑問を抱くほど私はアラブ世界のことを知らない。

   各講座の出来不出来を論じる代わりの二言三言。

   一秒の無駄もない(誇張ではない)「ハングル講座 入門編」(キム・ドンハン)と「ハングル講座 応用編」(キム・ユホン)が私は気に入っている(「一秒の無駄もない」とは多くの講座について言えることであるから、多くの講座が気に入っている、と言っておかねばならない)。

   時折り講師が当該国での滞在体験を披瀝する講座もあり、いつ終わるとも知れぬ雑談に始まりたっぷり雑談が挿みこまれついには雑談で締めくくられる「ラジオ講座」(「この講座」に私は腹を立てている)もある。敢えて余談を交える講師の心理は分からないではないが、20分間の講座でそんな余裕はないはずである(注7)

   私が習得したと言える異語は心底無念なことにただ一つとしてないけれども、異語をある程度でも読み書き話せるようになるにはどれほど多くのことを学ぶ必要があるかは骨身に沁みて体験している。雑談やちょっと一息はテレビの語学番組に任せておけばいい、というのが私の感想である(現在の私の性向の一端がこれで露見しようというものだ)。こんな私にテレビの語学番組は不向きであろう(注8)

   人は、私は、なぜ異語(注9)を学ぶのか。あるいは学ばないのか。人はなぜ学ぶのか、勉強するのか。子供は、大人は、中年は、老人は何のために勉強するのか。あるいはしないのか。

   私を駆り立てているのは好奇心である――たぶん。

記 〇五年六月

(注1)
男性講師の講座:「ドイツ語講座 入門編」(保阪 靖人)、「アンニョンハシムニカ〜ハングル講座 入門編」(キム・ドンハン)、「フランス語講座 入門編」(立花 英裕)、「イタリア語講座 入門編」(京藤 好男)、「ドイツ語講座 応用編」(金曜)(諏訪  功)、「アンニョンハシムニカ〜ハングル講座 応用編」(キム・ユホン)、「フランス語講座 応用編」(澤田  直)、「スペイン語講座 応用編」(山崎 眞次)、「中国語講座 応用編」(楊 凱栄)の9講座。

女性講師の講座: 「中国語講座 入門編」(喜多山幸子)、「ロシア語講座 入門編」(安岡 治子)、「アラビア語講座」(榮谷 温子)、「ロシア語講座 応用編」(滝川ガリーナ)、「イタリア語講座 応用編」(鈴木マリア・アルフォンサ)の5講座。

「ドイツ語講座 応用編(英語で楽しむドイツ語)」(土曜)(アンドレアス・リースラント、ダグマー・クンスト)の講師は男女の二人。

(注2)
男性講師の講座:「ドイツ語会話」(相澤 啓一)、「フランス語会話」(国枝 孝弘)、「スペイン語会話」(大岩  功)、「ロシア語会話」(金田一真澄)の4講座。

女性講師の講座:「中国語会話」(陳 淑梅)、「イタリア語会話」(入江たまよ)、「アンニョンハシムニカ〜ハングル講座」(金 珍娥)、「アラビア語会話」(師岡カリーマ)の4講座。

(注3)
私の手もとにあるお二方に関係する書物といえば、朝倉季雄著『フランス文法事典』(白水社)、藤堂明保・松本昭・竹田晃編『漢字源』(学研)きりである。

(注4)
NHKラジオ第二では「中国語ニュース」「ハングルニュース」「英語ニュース」「ポルトガル語ニュース」「スペイン語ニュース」が放送されている。

(注5)
「上智大学における野間秀樹のコリア語担当講義」(http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/nomahideki/sophia01.html)。
同じ人物が「朝鮮語」という呼称も用いている。
『至福の朝鮮語(しふくのちょうせんご)』(野間秀樹著.朝日出版社)(ibid)。

私の書棚にはもう長いこと『韓国語講座(T)初級用』、『韓国語講座(U)中級用』(いずれも高麗書林)、『朝和辞典(第2版)』(白水社)が飾ってある。

(注6)
「人気」という語の発音についてキム・ドンハン講師は「日本語でも(ニンキのキは)濃音のような発音になりますけれども、この言語でもインギではなくインキ、慣用的に濃音に変えながら発音します」(第29課「助詞「〜で/〜にて」・数詞」)と説明している。

(注7)
例えば「ロシア語講座 入門編」では学ぶべき数々のことが毎回淡々と解説される。「人称代名詞の前置格」、「名詞複数前置格形」、「男性名詞単数対格形」、「人称代名詞の対格形」、「形容詞短語尾中性形」、「形容詞複数前置格形」、「名詞単数生格形」、「唇音変化動詞や歯音変化動詞」、「名詞単数造格形」、「複数生格形」等々の一覧が示される。20までの「個数詞」が示され、数詞が「1」の場合、数詞と名詞の性・数・格は一致し、数詞が「2・3・4」の場合、名詞は単数生格形となり、数詞が「5以上」の場合、名詞は複数生格形となることが解説される。

安岡治子講師は「大変ですががんばりましょう」などという無駄口は叩かない。ロシア語を学ぶのもまた大変なのである。激しい苦痛でのたうちまわる病人やけが人は痛い思いをしているのであり、大切な人を失った人は悲しいのであり、どん底生活を強いられている人たちはこの世の辛酸を舐めているのであるようにである。

ただし、ロシア語の場合、他の異語に比して学ぶべきことが特に多いわけではない。どんな異語であれ、よそ見しながら楽々と学びとることなどできない。「ダイエット」に楽々成功することなどできないのと同じである。

(注8)
テレビ「アラビア語会話」をもう一度見た(これで通算二回半見たことになる)。三十分の番組に収められていたのは五分あれば収まるほどの学習内容であった(毎回五分の帯番組にして週に六回放送したら、というのは真剣な提案である。そうなったら毎回欠かさず見たいと思う)。 この番組中で、アルモーメン・アブドーラ氏(男性)が生徒役の柳家花緑にアラビア文字の書き方を指導し、わずかではあるが手本を書いて見せた。

ところで、アラビア文字で綴られたアラビア語はしみじみ美しい。犯罪者の犯行声明を目にして改めてそのことを教えられたのである。

もうひとつところで、《朝鮮語》の詩が女性の美しい声で朗読されるとその美しいこと、身も心もとろけるがごとくである(女性にとっては男性の、例えばヨン様の美しい声で朗読されると、ということになろうか)。

(注9)
『エスノログ』の最新版Ethnologue: Languages of the World Fifteenth Editionが挙げている世界の言語の数は6,912である。
How Linguists and Missionaries Share a Bible of 6,912 Languages ( By MICHAEL ERARD, The New York Times ON THE WEB, July 19, 2005)参照。

この頁の先頭

「折々のコラム」の目次頁に戻る  /   「(続)折々のコラム」の目次頁に戻る     

表紙頁に戻る

 
© Copyright Nojima Akira
(許可なく複製・転載することを固く禁じます)