予備校講師の閑談
英語講師・横井順

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顕彰状

 加藤紘一殿


  貴方の今般の見事な逃げっぷりに、我々はただ唖然とするばかりでした。老若男女の国民は、政治家の言行にはゆめゆめ心すべきことを、心無くも、改めて、骨の髄まで思い知らされる羽目に陥りました。貴方が図らずも成し遂げられたこの功績はまことに大であると言う他ありません。

その出処進退は優柔不断かつ不可解、発言と行動との齟齬まことに著しく、白々しく国民世論に支持を訴え語りかけ、少なからぬ国民が不覚にもついついその気になり、ふらりと心を寄せかけた矢先、土壇場で敵前逃亡、その軽やかで恥知らずな転身は、我々に怒るいとまも与えず、ただただ大口を開けた間抜け面のまま固まる他ありませんでした。

敵前逃亡を名誉ある撤退と言い放つ貴方が、白河夜船の逃亡を決するにあたり、最後の最後に慮ったと宣わったのは、貴方の派閥の同士ではありましたが、愚かしくも貴方に一縷の望みをつなぐという軽挙に走るに及んだ少なからぬ数の国民ではありませんでした。

貴方は、貴方が愛する古色蒼然腐臭を放つ党とその敬意払わざるべからざる能天気な総裁の地位を一時救うにあたり、その功、到底言葉に尽くせぬほど厚く、現今の政治のみならず、今後末永きに渡る政治をも貶めることに甚大な貢献をなされました。その柔弱怯懦と支離滅裂な言行は古今東西にもその類例稀覯、後世への戒めとして、これを凌駕するものを見出すべくもないのは、王対長島の日本シリーズと並び、ゆくりなくも世紀末に天から授かった僥倖であると有り難くも畏くも、深く肝に銘じ、子々孫々にまで語り継ぎ、今後の教訓として生かす所存であります。

   その不真面目かつ軽率かつ邪な権勢欲も露わな言行をもってして、予備校に籍をおき、政治とはおよそ無縁な浪人生に「今夜の国会が楽しみだ」と呟かせるほど、盛り上げるだけ盛り上げておきながら、「なーんちゃって」、と軽くすかしてくれるとは、貴方が秘めていたそんな意外性を予め慮ることなどかなうべくもあらず、すかされた我らが身の不運を嘆き、それにも増してこの身の不明を恥じ入るばかりであります。

   その振り返るだに無慚な言行により、身から出た錆び、今となっては寄る辺もなきその生ける骸をもって、貴方は我々に得られること稀な教えを垂れてくださいました。今我々は、貴方の垂れた教えをここにつまびらかにするにとどまらず、その恩は、これを須臾も忘れるまじく、我らが悠久日本国の歴史に刻み、千代に八千代に、末永く顕彰するものであります。

2000年紀末 11月21日 加藤紘一君を顕彰する有志の会


(注)【顕彰】明らかにあらわれること。明らかにあらわすこと。(『広辞苑』)


記 2000年11月21日
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